カテゴリー別アーカイブ: レコーディング

藤井尚之「Dark & Light」(3)

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M7「Counter Attack
インストゥルメンタル曲にタイトルをつけるのはなかなか難しく、レコーディングがすべて終わった後ひねり出すことが多い。前回もそんな感じだった。今回は珍しく、プリプロ段階の仮タイトルがそのまま正式タイトルとなったものばかりで(表記など一部変更はあり)、これは唯一の例外。元は「dynamite」と呼ばれていた。

M8「コンドルは飛んでいく
カバー曲その3。アンデスのフォルクローレの代表的な楽曲でサイモン&ガーファンクルがカバーして広く知られるようになった(Wikipediaからコピペ)曲。リズムのプログラミングは豪太さん。これとM10の2曲を録ればレコーディング完了、という日の朝、ギターの古澤くんがインフルエンザに罹ったとの知らせを受けた。順風満帆だった今セッションで初めてのピンチ。そこを救ってくれたのが菊池真義くん。昼にライブの本番があったにもかかわらず、日が落ちる頃には駆けつけてくれた。菊ちゃんの弾くワウギターは饒舌で、ギターを置いた彼もまたよくしゃべる。黙っていては沈んでしまうマグロタイプの好中年だ。

M9「落ち葉
チェッカーズ解散後の尚ちゃん初アルバムは、映画「教祖誕生」のサントラ盤。そのテーマソング「N.」を彷彿させる3拍子の曲。あのサントラは富田素弘さんと松武秀樹さんによって、ほとんどがシンセの打ち込みで作られていたが「N.」だけは生リズムで録音された。(このことは前にも言ったかもしれないが)その時ドラムを叩いていたのは、ここ数年F- BLOODや兄のレコーディング/ライブでおなじみの大島賢治さんだった。1993年ある夏の日の出来事である。

M10「No.9
カバー曲その4。ちょっと紛らわしい10曲目のNo.9、いわゆる第九。これもリズムは豪太さんのプログラミング。ずっと聴いていたくなる楽しげなビートで、私はこのリズムトラックが大好きだ。インフルエンザ禍でどうなることかとの心配をよそに、ベース、ギター、ピアノのレコーディングはワンテイクOK。ピンチは逆にチャンスでもあることを再認識した。

M11「夜空
ステージから演奏者が去り、客席のライトが灯る。終演を知らせる曲が流れ、立ち上がった人々は背中でそれを聴きながら出口へと向かう。そんな場面にピッタリなエンディング曲。ミックスダウンでは余計なことはせず、シンプルな作りを意識した。リバーブやディレイといった空間を演出するものは一切使っていない。聴く人それぞれが、自分のお気に入りの場所をイメージして楽しんでいただけたら幸いだ。

以上11曲、録音担当技師による何の参考にもならないテキトーレポートを終わる。みなさま、近々行われるライブへぜひ足をお運びください。そして帰り際に夜空を見上げてみてほしい(まだ明るかったらすみません)。


あ、いつの間にかDVD付きの方が安くなってる、、、。

藤井尚之「Dark & Light」(2)

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M3「kakera」(つづき)
1月30日。リズム録りを終えサックスダビングの準備をしていると、背後で「あー」という声がした。(ノンアルコール時は)物静かな尚ちゃんがこのような感嘆詞を吐くのは珍しい。何事かと振り返った私の前に出されたのは、青い紙飛行機。サックスの朝顔菅に入っていたという。そう、昨年大晦日(正確には年明け後)兄の武道館カウントダウン、アンコールのあの曲の時に紛れ込んでいたのだ。演奏中ならばさすがに気づくだろうから、おそらく一旦楽器を置いてウロウロしていた長い間奏での出来事だろう。尚ちゃんは金と銀、2本のテナーサックスを使い分けていて、武道館ではこの銀のもの、今年のレコーディングではこの日までずっと金のものを使っていた。銀さんのケースが開けられたのは武道館以来だったのだ。この日の仕事が終わり、ひとり残ったスタジオで私は紙飛行機を開いてみた。メッセージやお名前があるかと期待したが、何も書かれてなかった。それでもこれをゴミ箱へポイとするのはしのびなく、スタジオにさりげなく置いたままにしておいた。先日所用で兄が来ていて、ちょっとしたメモのため手近にあった紙飛行機を開きペンを走らせていた。その後の行方は知らない。あの日あの場所で青い紙飛行機を飛ばした記憶のある方、これは私が飛ばしたものだ、と信じることで少し幸せな気分になれるかもしれない。曲に関係ない話ばかり長々と続いてしまったので最後に一つだけ。曲冒頭に出てくるドラムのループはプリプロで使われていたものをそのまま使用した。曲中でも生ドラムと共存させている。

M4「Jive Nite
この曲を聴くと、トラベラーズとのあのセッションが想い起こされる。2011年、東日本大震災後に行った久留米のオイリーズカフェ。昼にキムラヤのホットドッグ食べ、レコーディングをして、夜は天神で焼き鳥。私にとってバカンスのような1週間、楽しい日々だった。東日本がまだ自粛ムードに包まれていたあの頃、何事もなかったような久留米の夜の眩しさが印象に残っている。あのとき機材面で大変お世話になった金物屋の若旦那はお元気だろうか。当時レコーディングの詳細なレポートをまとめ、当ブログで公開していたのだが、手違いからすべて消え去ってしまったことは今更ながら悔やまれる。

M5「ROSE
まずはじめに言っておく。これは「ローズ」ではなく「ロゼ」と読むのでお間違えのないよう。Aメロでサックスの金さん銀さんがペアで左右に配置され、Bメロではエコーのガウンを纏った金さんがひとりセンターへと躍り出る。そして印象的な色彩の間奏。曲のパートからパートへの場面転換が美しくなされ、ロマンチックなムードが全体に漂う。個人的にこのアルバムで一番気に入っている。

M6「Close to You
カバー曲その2。マーくんのベースから静かに始まる、知らない人はいないであろうカーペンターズの名曲。もの哀しげに始まるサックスは、1930~40年代頃のアーティ・ショウのクラリネットをイメージして音作りをした。なかなか上手くいっていると自負しているがどうだろうか。

次回へつづく。

藤井尚之「Dark & Light」(1)

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東京の桜が満開となった快晴のよき日(3/27)、藤井尚之New Album「Dark & Light」が発売された。前作「foot of the Tower」と同じくテナーサックスによるインストゥルメンタルで、オリジナル7曲、カバー4曲の全11曲が収められている。35年に及ぶキャリアで初となる全曲尚ちゃんアレンジ/プロデュース。これまで周りの大人たちの思惑を幅広く受け入れてきた間口の広い尚ちゃんの、中心にある「素」の部分がギッシリと詰まった、記念碑的作品に仕上がったと私は思っている。

M1から順番に簡単な曲紹介ふうの、なんの参考にもならない一口メモを記していく(途中で挫折する可能性あり)。

M1「5th St.
1月22日から始まったレコーディングで最初に録音された曲。バンドメンバーはドラム平里修一、ベース中村昌史、ギター古澤衛、キーボード工藤拓人の4人。このメンバーでオケを一発で録り、その後サックスをダビング。アルバムを通し基本的にこのスタイルでレコーディングは進められている。M1とM2のダイジェスト版Music Videoがここで視聴可能。DVD付き商品をお買い求めいただくと、このフルサイズ版が手に入る。通常盤より500円くらい高いので少し迷うかもしれないが、ファンの皆様は賢明なご判断をなさることだろう。この曲のMusic Videoはあのソラミミスト・安齋肇さんの手によるもの。

M2「Amazing Grace
カバー曲その1。ドラムは打ち込みで修一くんはおやすみ。全11曲中、3曲打ち込みものがあり、すべて屋敷豪太さんがプログラミングしている。当初、打ち込みドラムに拓人くんのピアノだけをダビングして、プリプロ音源の尚ベースと尚ギターをそのまま採用するつもりでいたが、尚プロデューサーの強い希望で差し替えに。元の尚演奏もとても好きだったのだけれど、やはりプロのミュージシャンはプロなのだなあと納得したのだった。間奏のサックスソロがなんか変、と思った方、あれは別パートのサックスを逆回転にして無理やりはめ込んだので変なフレーズになっているのです。尚ちゃんが上手く吹けなかったわけではないので、気にせず通り過ぎてください。

M3「kakera
2月半ば、アルバム制作も最終段階へと進み、私は自宅でマスタリング作業をしていた。その日は日中でも気温が5度前後までしか上がらず、石油ストーブを灯していても指先がかじかんでくる寒さだった。普段作業場には飼い猫を入れないようにしているが、ニャーオニャーオと啼きながらノックする磨りガラスに映る猫のシルエットが不憫で、特別に禁を破った。猫は入るなり私の膝に飛び乗り、身体を丸めすぐ眠りに落ちた。完成しつつあるアルバムをBGMに、まるで「ねことじいちゃん」のような平穏な午後のひととき。しかしそんな蜜月もこの曲の間奏で終わりを迎える。キュインキュインという古澤くんのギターソロが始まると猫は急に首をもたげ、左右を確認するよう首を振り、パッと膝から飛び降りた。尻尾を膨らませガラス戸の前に駈け寄って振り向き「ここなんかヤバいのいる。はやくトビラあけてくれ」とでも言いたそうな目をして私に訴えかけてきた。開けてやると猫は一目散にどこかへ走り去り、その日はもう二度と作業場へ近づくことはなかった。

この曲にはもうひとつ、ちょっとしたエピソードがある。でも長くなったのでそれは次回に。

藤井フミヤ LAST COUNTDOWN PARTY 2018-2019

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またまたやってきた大晦日の武道館。「一年早いね」なんて口に出すことすら躊躇うほどの、早い早い一年だった。

「LAST COUNTDOWN PARTY 2018-2019」3年続いた通算15回目のカウントダウンも今回で見納め(らしい)。2019年は元号も変わるし武道館の改修工事もあるので、ひと区切りつけるにはいい機会だと思う。

~セットリスト~
M1 P.S.マリア
M2 愛
M3 タイムマシーン
M4 Hello
M5 Blue Moon Stone
~Talk~
M6 Little Sky
M7 夜明けの街
~Talk~
M8 I have a dream
~Talk~
M9 Cherie
M10 ミセスマーメイド
M11 魔法の手
M12 映画みたいに
M13 Long Road
M14 Go the Distance
~Talk~countdown~君が代~
M15 I•N•G
M16 GIRIGIRIナイト
M17 REVOLUTION 2007
M18 Stay with me.
~Talk~
M19 ALIVE
~アンコール~Talk~
EC1 TRUE LOVE
~Talk~憲武さんin~
EC2 白い雲のように
~Talk~
EC3 友よ
~憲武さんout~Talk~
EC4 紙飛行機
EC5 Come on !! Ohちゃん !!(第九)

オープニング「P.S.マリア」を聴きながら、初めてのカウントダウン(1999-2000年)を思い出していた。あの頃は2000年問題なんてことも囁かれていたから、なんのトラブルもなく「2000年の夜明け」を迎えられてホッとしていた(空から恐怖の大王も来なかったし)。あれから19年。ずいぶん昔のような気もするし、ほんの少し前のようにも感じる。

ファンに360度囲まれた円形ステージを、全力で駆け回り唄いきった56歳。昭和のスーパーアイドルは平成の世を生き抜いた。次の時代でもまだまだ私たちに安息を与えることなく、ステージに立ち続けることだろう。ファンの皆様の変わらぬ声援を期待してやまない。

ああ、こんな拙文を書き連ねている場合ではないのだった。ライブの模様が今年もTBSチャンネル1で放送(1/27(日)午後9:00〜午後11:00と1/31(木)午後11:00〜深夜1:00)されるのだ。私は新年早々、締め切りに追われている。

35周年。あの頃、みんな若かった。

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2018年9月21日、藤井フミヤ35周年記念ライブツアー初日のダブルアンコール。サプライズゲストの登場で東京国際フォーラムホールAには、その日一番の歓声が湧き上がっていた。本編とアンコール合わせ22曲、それまでも結構な盛り上がりだと感じていたが、ファンの皆さまはいつまでもパワフルで若々しい。そんな皆さまの秘めたる想いが、ステージに彼らを呼び戻す力になったのだと思う。

彼らを初めて知ったのは14歳、中学2年生だった。学校に行く前、朝ごはんを食べながら観ていた「志賀ちゃんのおはスタ」。1983~84年の頃のことだ。それから時は流れ、働き始めた私は20歳になっていた。1990年、一口坂スタジオで初めて会った彼らは、とても大人に、いや、飾らずに言えば「オッサン」に見えた。いま思い返し、当時彼らがまだ20代中盤から後半だったのだと改めて気づき、驚きを覚えている。そしてこの日楽屋で会った50代の彼らの若々しさにも驚かされた。

ダブルアンコール曲リスト
EC-1  I Love you,SAYONARA
EC-2  Friends and Dream
EC-3  Long Road
EC-4  恋のGO Go DANCE!!
EC-5  NANA

笑いあり涙ありの素敵なステージだった。チケットを当てたラッキーな約5000人それぞれが、あの日の自分と邂逅したことだろう。エンディングで流れたデビュー曲に合わせ大合唱する様は、あの日の少女の姿(目を閉じていれば)だった。

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7~8年前、近所のブックオフで見つけたチェッカーズの写真集。辞書や図鑑や美術書やらの大型本に紛れ、無造作に置かれていた。そのまま放っておくのが忍びなく105円払って持ち帰った。久しぶりにそれを開いてみようとあちこち探したが、どうやら失くしてしまったようだ。あるいは置き場所に困り、オークションで売ってしまったのかもしれない。

アブラーズの35周年記念ライブが9月26日、恵比寿・リキッドルームで開催される(ゲスト/鈴木雅之、佐藤善雄、桑野信義)。さらに10月24日の大阪・なんばHatchでは、ゲストに藤井兄を迎えるそうである。チケット入手は困難かもしれないが、こちらもお楽しみに。

藤井フミヤ カウントダウン2017武道館

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あけましておめでとうございます。

私はまた録音車の中で年を越し、新年を迎えた。

少し入れ替えのあったバンドメンバーを紹介しておく(敬称略)。不動のおふたり、Drums屋敷豪太、Bass(バンマス)有賀啓雄に加え、初カウントダウンのGuitar田口慎二、久しぶりに参加のPercussion & Manipulator毛利泰士、もっと久しぶりのKeyboard & Sax大島(Nagi)俊一、そして藤井兄弟。両サイドのコーラス2名はいないが、楽器陣はチェッカーズと同じ編成である。

以下セットリスト。懐かしい曲が並ぶ1ブロック目の破壊力は甚大だった。

M1 TOKYO CONNECTION
M2 Gipsy Dance
M3 運命 -SADAME-
M4 Hello
M5 Blue Moon Stone
~Talk~
M6 タイムマシーン
M7 ハートブレイク
M8 女神 (エロス)
M9 Snow Crystal
M10 Another Orion
~Talk~
M11 夜明けのブレス
M12 I Love you,SAYONARA
M13 WANDERER
M14 ONE NIGHT GIGOLO
M15 NANA
~Talk~countdown~君が代~
M16 TRUE LOVE (reTake version)
M17 MY STAR
M18 ”Doo-bee Doo-bee”Freedom
M19 UPSIDE DOWN
M20 ANGEL (DMT Version)
~アンコール~
EC1 GIRIGIRIナイト
EC2 Stay with me.
EC3 恋の気圧
~Talk~
EC4 紙飛行機
EC5 Come on !! GOちゃん !!(第九)

出だしの数曲で、ファンの多くは若かりし頃の自分に出会ったのではないだろうか。タイムマシーンを使わずとも、あの日あの時、心だけは瞬時に遡る。個人的にはM4「Hello」が思い出深い。イントロが流れただけで、脳裡には当時のスタジオ風景が、一口坂2スタ左奥ブース内にいるアンディさんの顔が浮かんでいた。

コンガとギターのカッティングとの絡み具合が、なんとも言えぬ「あの頃」の匂いを醸し出していたのだと思う。ちょっとオトナになったチェッカーズを聴いているようであった。

舞台監督の中尾さんから回ってきた内部資料によると、藤井兄さんのライブはこれが通算1001本目になるそうだ。これだけの本数を積み上げ、35年近くクオリティを維持し続けていることには、ただ敬服するばかりである。

武道館に限れば108本目とのこと。大晦日の夜に煩悩の数で締め、これが最後の武道館となればドラマチックな幕切れなのだろうが、私の推測では兄の煩悩の数はもう少し多いかと思われる。きっと今年の大晦日も、またここへ戻ってくるだろう。

追伸1
このライブはTBSチャンネル1で放送(1/28[日]21:30〜23:30)される。是非ご覧あれ(舞台セットのどこかに「1001」という数字が隠されている。見つけられるだろうか)。

追伸2
昨年11月24日にwowowで生中継したF-BLOODのライブが再放送(1/30[火]18:45~)される。ミックスダウンをやり直しているので、当日のものよりは聴きやすくなっているはず、、。是非これも。

F-BLOOD ツアーファイナル WOWOW生中継

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本日(11/24)19時より、F-BLOOD POP’N’ROLLツアー最終日公演がWOWOWで生中継される。会場はZepp DiverCity。2daysライブの2日目である。

こういった2日目が収録や生放送の場合、録音チームは初日からスタンバイしていることが多い。しかし今回は諸事情によりそれができなかったため、いつもは録音車の中で引きこもっている私も、昨日は久しぶりに会場内で観ることを許された。

口にするには憚られるいくつかの心配事を抱えながら観ていたが、それらはほぼ杞憂に終わった。パワフルな3ピース+藤井兄弟がうまく溶け合い、過不足のない「2017年度版F-BLOOD」は完成していた。

以下業務連絡というか、本日来場してくださる方へのお願い。

昨日は少し、会場全体がおとなしいかなと感じたので、テレビで観るファンに臨場感をより多く伝えるために(そしてもちろんステージ上の5人を励ますためにも)、大きめの拍手歓声希望します。しかし決して無理をなさらぬよう、お身体をいたわりながら、各自できる範囲で。

F-BLOOD 氣志團へ楽曲提供

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氣志團Newアルバム「万謡集」が本日(8/9)発売された。その7曲目「BANG ON!」は藤井兄弟が作詞作曲している。

アルバム「POP ‘N’ ROLL」用に準備していた中の1曲で、もし氣志團から依頼がなければF-BLOODとして世に出たはずの曲である。もうひとつ候補曲があったが、熟慮の末「BANG ON!」を提供した。手元に残した別曲はもちろん「POP ‘N’ ROLL」に入っている。どの曲かは教えない。

氣志團結成二十周年を記念したニューアルバム「万謡集」は、氣志團メンバーが心から尊敬している音楽クリエイターの皆様からご提供頂いた楽曲で制作!!(氣志團オフィシャルサイトより抜粋)』というコンセプトのアルバムらしい(F-BLOODも20周年だ)。さらに制作もクリエイター各々の環境に準じたいとのことで、エンジニアとして私が呼ばれた。

楽曲提供だけのはずが、尚之さんにサックスも吹いてもらいたい、との要望があった。氣志團メンバーからのリクエストは「おまかせ」だ。バンドが作り上げたオケに、イントロ間奏エンディングとフレーズを考えながらダビングしていく様は、在りし日のチェッカーズに重なる。享さん裕二さんが「尚之、あとは任せた」と言い、ダルマの目を入れるがごとくオケの締めくくりを務めた藤井尚之がそこにいた。

レコーディングはリズム録りからサックスダビング、唄、コーラスまで順調に、すべて一日で終わった。メンバーが帰り、数人のスタッフが残ったスタジオで、某女性のふと漏らした言葉が印象に残っている。

「30年前の私を励ましてあげたい。いま挫けず頑張れば、30年後、壁や天井に貼ってあるポスターのこの人に会えるんだよ。生でサックスが聴けるんだよ」

カーペットを敷いた四畳半の和室で小さな炬燵を抱え込むようにして背を丸め、必死の形相で問題集に取り組む高校受験を間近に控えた少女(勝手なイメージ)。その元少女は挫けずに育ち、そこにいた。

F-BLOOD「POP’N’ ROLL」6/21発売

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F-BLOODが結成20周年だそうである。え、もうそんなに、、、と訝ったけれど、、、2ndシングル「SHOOTING STAR」はNHKの長野オリンピックテーマソングだったなあ、、、オリンピックは1998年で、その前の年に1stシングル「I」が出たはずだから、、、なんてことが1秒くらいで脳内を駆け巡り、それで今年は2017年か、、、え、てことは日韓ワールドカップからは15年も経ってるの、、なんてことに寄り道をしつつも、確かに20周年だと納得した。

前作「Ants」から早9年、F-BLOOD3枚目のアルバム。昨年兄のアルバム「大人ロック」でお馴染みの大島賢治さんプロデュースである。

1  ROCK BAR
2  Want Chu
3  未来列車
4  Make me
5  Full moon night
6  東京Style
7  COOL BABY
8  To be continued etc.
9  孤独のブラックダイヤモンド
10  Love is blind
11  THE FRUSTRATIONS
12  君だけのHERO

未来列車」は今春からTV「朝だ!生です旅サラダ」のエンディングテーマになっていて、先行配信もされているのでファンの方々はすでにチェック済と思われる。

先月すでに配信済だったことにさっき気づいた「孤独のブラックダイヤモンド」は、どことなく1983~4年頃「志賀ちゃんのおはスタ」にチェックの衣装で出ていた7人組が思い起こされ、当時そのバンドと寄り添って生きていた人の琴線に触れる、魂をふるふると震えさせるナンバーだ。全くふるふるしなかった、と言われてもそれは個人差のあることだから私は知らない。

このアルバムリリースに合わせ、ポニーキャニオンから1stアルバム、ライブアルバム、ライブDVDが同時に再発される。昔持っていたけど就職結婚離婚や引っ越しなどでなくしてしまった人、この機会に再び手に入れ、時計の針を巻き戻してみるのもいいだろう。あっという間の20年でも、それなりの濃淡で時は刻まれている。

土屋公平 New Album「I’m Your Boogie Man」

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私的モード録音盤」シリーズ新作「I’m Your Boogie Man」が発売されている。

春、桜が満開になった頃「またアルバム出すから手伝って」と公平さんから電話をいただいた。2011年から始まった「私的モード録音盤」シリーズも今作で8作目。はじめはマスタリングを頼まれ、前々作からはミックスもお手伝いするようになった。

「今回はベスト盤にしようと思うんだ。新しいのも少し入れて。詳細はまたメールするね」

電話の感じでは4月中の完成が望ましいようである。この時期の私は他の締切に追われ、あまり余裕のある状態ではなかった。しかしベスト盤ということで、ミックスの曲数は少ないだろうから何とかなるか、と安易に考えていた(ミックス2~3曲、トータル12~15曲くらいのマスタリング、という計算)。

後日届いたメールに、私は驚愕した。ちょっとニュアンスはズレているが「取らぬ狸の皮算用」という諺が浮かんだ。

なんと2枚組「POP SIDE(13曲)」「BLUES SIDE(12曲)」の全25曲。さらにミックスしなければならない曲が、POPで7つ、BLUESで2つの計9曲もあったのだ(新録音の曲に加え、Vocalなどいくつかの音がリテイクされた曲があったため。後に「少年とギター」もリミックスすることになったのでプラス1曲)。

綱渡りな状況に置かれ心はざわついたが、経験上、追い込まれた時の方がいい結果に結びつく確率が高い。今回もそうなったと信じている。

「私的モード録音盤」6年間の集大成が、今回の2枚組に詰め込まれた。ベスト盤だけれどただのベスト盤ではない、私的モードならではの少しアップデートされたベスト盤。次回作、また新たな私的モードを期待して、公平さんからの電話を待つこととしよう。