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読書日記「親鸞」五木寛之著

shinran

活字中毒などでは決してないが、私はほどほどに本を読む。

そんな私の読書仲間に、頭文字にKのつく先達がいて、気まぐれに課題図書を提示してくることがある。今回は五木寛之著「親鸞」だった。

五木さんの顔と名前はもちろん知っているし、新聞雑誌等のコラムも何度か読んだことがある(そんなコラムやエッセイをまとめた文庫本もたしか持っていたはず)。ただこれまで何となく気後れして小説には手が伸びなかった。

学生時代、私は日本史の授業が好きだった。成績もまずまずだったと記憶する。しかし鎌倉仏教のところはどうしても覚えられなかった。誰が浄土宗、誰が臨済宗など全く興味がわかず、まあ要するに好きじゃなかったのだ。それがトラウマなのか、社会人になってからも仏教関係の本は避けていたように思う。

そんなワケで、Kおじさんにこれを勧められたときも正直なところ気乗りせず、今回はパスかなと思っていた。

その数日後、野暮用で近所の公民館へ行った。そこには「図書館」ではなく「図書室」といった佇まいのスペースがある。久しく立ち寄ることもなかったのだが、お釈迦さまのお導きなのか、フラっと足が向き本棚の「い」の区画の前にいた。さすがは大作家、小さな図書室にもたくさんの著書が置いてある。そこに「親鸞」が待っていた。

「偉人の伝記」みたいなカタイ話だったらどうしよう、、、。特に興味のない人物のその手のものを、最後まで読み通す自信は全くない。リタイア覚悟で読み始めると、、、ページを繰る手が止まらない、とはまさにこのことだ。上下巻を一気に駆け抜けてしまった。

少年の忠範(ただのり)が出家して範宴(はんねん)に、そこから綽空(しゃくくう)、善信(ぜんしん)、そして親鸞へ。物語は親鸞を名乗りだすところで終わる。

主人公の成長、魅力的な脇役との絡み、活劇調のシーンがあり、少しのエロチシズムもある。安っぽい表現しかできないのがもどかしいが、とにかく面白い。エンターテインメント小説として一級品である。

登場人物の性格やエピソードなど史実とは異なり、大いに脚色が加えられていることだろう。なので「親鸞伝」のようなものを望む人には、これはちょっと違うと感じるかもしれない。

だが仏教用語など丁寧に説明されていて、この方面に暗くても難儀せず読むことができる。ルビの振り方も親切だ。読み方がわからなくなって何ページも彷徨わずに済む。親鸞、浄土真宗(浄土宗)について、その入り口として気軽に読めるのがいい。

私ごときがいまさら云うのもおこがましいが、敢えて云う。五木さんは本物の小説家、プロフェッショナルである。私はその道のプロ、職人という方にとても憧れ、無条件で好きになってしまう。内容、筆の運び、全く隙がなく、プロの技を充分に堪能した作品であった。

ちょっとでも気になったならば、ご一読を強くオススメする。損はしない(はず)。


親鸞(上) (講談社文庫)
親鸞(下) (講談社文庫)