「な、尚之さん、楽器、また持ち替えてましたけど、い、いーんですか?」
んんん???
いまこれを読んでくださっている方々は、頭の中にクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。この時、それと同じ「???」がスタジオ内にも飛び交っていた。ただ一人を除いて。
その人、藤井弟さんは窘めるような目付きで、武田弟さんをジッと見つめていたという(Kディレクター談)。私はその瞬間を惜しくも見逃した。
何が起こったのか順を追って整理しよう。
(1)「Neo Cat」はテイク5がOKとなった。
(2)しかしハリーさんは自分の演奏で一部気に入らないところがあるという。
(3)その場所を前テイクと差し替えようとする。
(4)だがOKテイクだけ尚之さんの楽器が違うため、前テイクとの互換性がない。
(5)そこで差し替え用に、OKテイクと同じ状態でその場所だけ録ろう。
(6)OKテイクと同じサックスで演奏しているはずの尚之さん、実はそれ以前のテイクで使ったサックスを吹いていた。
(7)隣で目撃した真治さん、それをチクる。尚之さん睨む。
部分録りするのは何のためか。差し替えしようにも他のテイクはOKテイクと音が違うから、同じ環境で差し替え用のパーツを録る、そういう話だったのだが、、、。
そんなことをすべて吹っ飛ばす尚之さん(普通の人ならオイオイ、、、となるところ。それがミリョクのひとつになるなんてズルい。私はますます好きになりましたよ)。
こちらの意図がうまく伝わらず、もう1回全部演奏するつもりだったのかもしれない。おそらくOKテイクのサックスも、何かしっくりこないところがあったのだろう、そのことで頭が一杯だったのかと想像する(そう、心の奥底は覗けないのだ)。
それよりも、真治さんに指摘されるまでその違いに気づかなかった私が問題である。ドラムの音ばかりに気を取られ、サックスは同じもの、と思い込んでいた。人の思い込みというのはオソロシイ。
結局のところ「OKテイクだけ尚之さんのサックスが違う」という問題は何も解決されなかったワケだが、この場はこのまま笑い話で済ませた(済ませていいのだろうか)。案の定、ミックスダウンの時、2つのサックスの違いが気になってしまい、そこはプロの技で整えることとなった。
インストが2曲続いた後、本日の締めは唄曲で。Vocalは顕三郎さん。
今度こそ唄は別録りにしたいと、顕三郎さんは言う。A,Bメロと音程が低く、オケに対して埋もれがちになる旋律のため、私もその方がいいだろうと判断した。
ただいきなりカラオケで録るというのでは、曲の全体像が見えにくい。主役不在のドラマを観るようなものだ。そこでバンドのエンジンが掛かるまでは同時に唄ってもらった。
唄ありの状態で3回練習し、機が熟したと見えたところで本番。カラオケ演奏は3回目でOKとなった。
間髪おかず、Vocalダビングに取り掛かる。久留米での前作から今日まで、この現場でこういう普通のVocalダビングは初めて。スタジオにおいて最もありふれた仕事なのに、なんだか不思議な感じがした。
「Early Early」「Repeat Day」とVocal同録のとき、シュアーSM58を使っていたVocalマイクを、今度はM49にした。いま思えばそのままSM58のほうがよかったかも、、、と反省している。ロックな顕三郎さんの声にはSM58がピッタリだった。もちろんM49も悪くないのだけれども。
唄は通しで3回録って終了。テイクを少し入れ替えてOKトラックを作った。
3×3=9の3日で9曲。こんなに順調でいいのだろうか。
4日目へつづく。