月別アーカイブ: 2019年4月

藤井尚之「Dark & Light」(3)

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M7「Counter Attack
インストゥルメンタル曲にタイトルをつけるのはなかなか難しく、レコーディングがすべて終わった後ひねり出すことが多い。前回もそんな感じだった。今回は珍しく、プリプロ段階の仮タイトルがそのまま正式タイトルとなったものばかりで(表記など一部変更はあり)、これは唯一の例外。元は「dynamite」と呼ばれていた。

M8「コンドルは飛んでいく
カバー曲その3。アンデスのフォルクローレの代表的な楽曲でサイモン&ガーファンクルがカバーして広く知られるようになった(Wikipediaからコピペ)曲。リズムのプログラミングは豪太さん。これとM10の2曲を録ればレコーディング完了、という日の朝、ギターの古澤くんがインフルエンザに罹ったとの知らせを受けた。順風満帆だった今セッションで初めてのピンチ。そこを救ってくれたのが菊池真義くん。昼にライブの本番があったにもかかわらず、日が落ちる頃には駆けつけてくれた。菊ちゃんの弾くワウギターは饒舌で、ギターを置いた彼もまたよくしゃべる。黙っていては沈んでしまうマグロタイプの好中年だ。

M9「落ち葉
チェッカーズ解散後の尚ちゃん初アルバムは、映画「教祖誕生」のサントラ盤。そのテーマソング「N.」を彷彿させる3拍子の曲。あのサントラは富田素弘さんと松武秀樹さんによって、ほとんどがシンセの打ち込みで作られていたが「N.」だけは生リズムで録音された。(このことは前にも言ったかもしれないが)その時ドラムを叩いていたのは、ここ数年F- BLOODや兄のレコーディング/ライブでおなじみの大島賢治さんだった。1993年ある夏の日の出来事である。

M10「No.9
カバー曲その4。ちょっと紛らわしい10曲目のNo.9、いわゆる第九。これもリズムは豪太さんのプログラミング。ずっと聴いていたくなる楽しげなビートで、私はこのリズムトラックが大好きだ。インフルエンザ禍でどうなることかとの心配をよそに、ベース、ギター、ピアノのレコーディングはワンテイクOK。ピンチは逆にチャンスでもあることを再認識した。

M11「夜空
ステージから演奏者が去り、客席のライトが灯る。終演を知らせる曲が流れ、立ち上がった人々は背中でそれを聴きながら出口へと向かう。そんな場面にピッタリなエンディング曲。ミックスダウンでは余計なことはせず、シンプルな作りを意識した。リバーブやディレイといった空間を演出するものは一切使っていない。聴く人それぞれが、自分のお気に入りの場所をイメージして楽しんでいただけたら幸いだ。

以上11曲、録音担当技師による何の参考にもならないテキトーレポートを終わる。みなさま、近々行われるライブへぜひ足をお運びください。そして帰り際に夜空を見上げてみてほしい(まだ明るかったらすみません)。


あ、いつの間にかDVD付きの方が安くなってる、、、。

藤井尚之「Dark & Light」(2)

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M3「kakera」(つづき)
1月30日。リズム録りを終えサックスダビングの準備をしていると、背後で「あー」という声がした。(ノンアルコール時は)物静かな尚ちゃんがこのような感嘆詞を吐くのは珍しい。何事かと振り返った私の前に出されたのは、青い紙飛行機。サックスの朝顔菅に入っていたという。そう、昨年大晦日(正確には年明け後)兄の武道館カウントダウン、アンコールのあの曲の時に紛れ込んでいたのだ。演奏中ならばさすがに気づくだろうから、おそらく一旦楽器を置いてウロウロしていた長い間奏での出来事だろう。尚ちゃんは金と銀、2本のテナーサックスを使い分けていて、武道館ではこの銀のもの、今年のレコーディングではこの日までずっと金のものを使っていた。銀さんのケースが開けられたのは武道館以来だったのだ。この日の仕事が終わり、ひとり残ったスタジオで私は紙飛行機を開いてみた。メッセージやお名前があるかと期待したが、何も書かれてなかった。それでもこれをゴミ箱へポイとするのはしのびなく、スタジオにさりげなく置いたままにしておいた。先日所用で兄が来ていて、ちょっとしたメモのため手近にあった紙飛行機を開きペンを走らせていた。その後の行方は知らない。あの日あの場所で青い紙飛行機を飛ばした記憶のある方、これは私が飛ばしたものだ、と信じることで少し幸せな気分になれるかもしれない。曲に関係ない話ばかり長々と続いてしまったので最後に一つだけ。曲冒頭に出てくるドラムのループはプリプロで使われていたものをそのまま使用した。曲中でも生ドラムと共存させている。

M4「Jive Nite
この曲を聴くと、トラベラーズとのあのセッションが想い起こされる。2011年、東日本大震災後に行った久留米のオイリーズカフェ。昼にキムラヤのホットドッグ食べ、レコーディングをして、夜は天神で焼き鳥。私にとってバカンスのような1週間、楽しい日々だった。東日本がまだ自粛ムードに包まれていたあの頃、何事もなかったような久留米の夜の眩しさが印象に残っている。あのとき機材面で大変お世話になった金物屋の若旦那はお元気だろうか。当時レコーディングの詳細なレポートをまとめ、当ブログで公開していたのだが、手違いからすべて消え去ってしまったことは今更ながら悔やまれる。

M5「ROSE
まずはじめに言っておく。これは「ローズ」ではなく「ロゼ」と読むのでお間違えのないよう。Aメロでサックスの金さん銀さんがペアで左右に配置され、Bメロではエコーのガウンを纏った金さんがひとりセンターへと躍り出る。そして印象的な色彩の間奏。曲のパートからパートへの場面転換が美しくなされ、ロマンチックなムードが全体に漂う。個人的にこのアルバムで一番気に入っている。

M6「Close to You
カバー曲その2。マーくんのベースから静かに始まる、知らない人はいないであろうカーペンターズの名曲。もの哀しげに始まるサックスは、1930~40年代頃のアーティ・ショウのクラリネットをイメージして音作りをした。なかなか上手くいっていると自負しているがどうだろうか。

次回へつづく。